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 『韓非子』にこういう話がある。
 あるとき名医の扁鵲(へんじゃく)が蔡の桓公という王様に謁見した。扁鵲は桓公の顔を見るなり、「肌に病気があります。今治療すれば治ります」と言った。しかし桓公は扁鵲が自分の手柄にするために病気をでっちあげたのだと思い、耳を貸そうとしなかった。その後も病気は肌の下、内臓と深まっていき、ついには骨髄に達した。それを見た扁鵲はもはや治療は不可能だと知り、逃げてしまった。桓公はそのまま病死した。
 この故事は韓非子が、「賢人は物事を処理する時にはつねに予兆のうちに処理するものだ」ということを伝えるために引用した故事だ。病気に限らず、仕事上のトラブルでも災害や犯罪の対策でも、何事でもつねに早期に対策を練ることが肝心だということだ。「重大事故の陰に29倍の軽度事故と、300倍のニアミスが存在する」というハインリッヒの法則にもとづいた、重大な災害や事故には至らないものの、直結してもおかしくない一歩手前の事例の発見をいう「突発的な事象やミスにヒヤリとしたり、ハッとしたりするもの」の事例を集めて重大な災害や事故を予防する、ヒヤリ・ハット・キガカリ活動とも通じるように思える。
 ここまでが前置きなのだが、最近のマンガやアニメを見ると、「病骨髄に入」ってからヒーローたちがようやく活動する話が多いような気もする。『ヘルシング』ではミレニアムがロンドンに攻めてきてロンドンが火の海にされてから反撃するし、『ひぐらしのなく頃に』では古手梨花が何度も惨劇をループしてようやく祭囃子編における惨劇打破の世界線に入れた。『ニンジャスレイヤー』でも、基本的にソウカイヤやザイバツの活動に対して後手に回っている。これなどは、味方陣営があまりに少ないというのもあるが。とはいえ、その味方が少ない、勢力的に弱いというのも、僕が考えたことと通じる。
 このことで思うのは、「マンガやアニメなどのエンターテイメントではヒヤリ・ハット活動はしてはいけない」という見えざる法則があるのではないかということだ。
 つまり、マンガでは事件が起きて大騒ぎになることで読者を楽しませ、さらに事件を起こした悪党をヒーローが成敗することでカタルシスを味わう。しかも、作品の中でどんな惨劇を引き起こしても、別にそれが現実の悲劇になるわけではない。むしろ、作品で鬱憤を晴らすことで現実の暴行や殺人を防ぐことができるなら、かえって有益というものだろう。(本題とは関係ないが、僕は作品の影響で殺人が起こるという意見には反対で、むしろ逆に作品によって殺人率は低下すると思っている)
 必殺仕事人でも、悪さをしそうな悪代官やならず者を事前に止めてしまったら仕事人の仕事ができないし、殺人事件を予防してしまったらホームズも明智小五郎も廃業である。(これにはそもそも、トム・クランシーが『愛国者のゲーム』で語った、「つねに犯罪者のほうが主導権をにぎり、警察はいつでも後手にまわる」という言葉が示す、犯罪やトラブルを未然に防ぐことの困難さも関わってきそうだが)
 僕はマンガやアニメを見ていて、「こんな悲劇を事前に止められないなんて、このヒーローは無能ではないか」と思ったことがあった。他にもそう思った人はいるのではないかとも思う。悲劇的な展開のマンガやアニメの序盤に未来の知識と能力を持ったオリジナル主人公を登場させて悲劇を打ち破る筋の二次創作小説などはよく作られているし、前述の『ひぐらし』の祭囃子編も似たイメージがある。けれど、そうした悲劇打破ものは、結局のところ悲劇そのものより名作とされることはあまりない。やはり、悲劇こそが娯楽であり、桓公が扁鵲の治療を素直に受け入れるようでは「お話にならない」のかもしれない。
 だとしても僕としては、何かそれを逆手に取る手はないだろうか、とも考えたくなる。たとえば『まどマギ』にしても、魔法少女もののアンチテーゼとして大ヒットしたわけだ。何か、王道であるゆえに数多くある悲劇もののアンチテーゼだとか、その裏をかくような面白い発想はないものだろうかと、つらつらと考える今日この頃だ。
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 今のオタク系アニメ、マンガでは、「ゆるふわ系」はひとつの定番だと思う。
 『ご注文はうさぎですか?』は大変な人気だし、今やってる『ハロー!!きんいろモザイク』も、毎週注目を集めている。ゆるふわ系の起源は『あずまんが大王』や『ARIA』あたりで、それが『けいおん』『らきすた』『ひだまりスケッチ』あたりからゆるふわ系として定着し始めたと思うのだが、あの当時は、このジャンルがここまで流行するとは僕も予想していなかった。
 
 しかし、逆説的なようだが、ゆるふわ系というのも結構厳しい世界だと思う。
 
 どういうことかといえば、ゆるふわ系は、「読者を和ませなくてはならない」「読者の気持ちを動揺させてはならない。ましてや苛立たせるなど論外である」「澄んだ水に落とした一滴のインクのごとき、作品中の不安要素はあってはならない」などと、厳しい不文律が数々あるからである。
 もちろん、これは僕がそう思っただけだが、たぶん同意してくれる人はいるだろうと思う。
 
 たとえば、ゆるふわ系の名作『Aチャンネル』の作者黒田bb氏の『あまりまわり』のAmazonレビューを見ると、あまり評判が良くない。実際に僕が読んでみても、確かに「なんか違う」という感じがあった。
 この作品は実際、ゆるふわ系としてはいくつかタブーに触れている。まず、男キャラが多い。無論それだけなら、『Aチャンネル』の佐藤先生や『ご注文はうさぎですか?』のチノの父などもいるが、彼らは注意深く「男性として無害なキャラ」にされている。また、『あっちこっち』や『未確認で進行形』の男キャラは、ヒロインとの甘々な恋愛をつつがなく行うという「役目」を与えられ、「末永く爆発しろ」と言われるのが任務になっているからこれも問題ない。
 問題なのは、ゆるふわ系でありながらラブコメ系の人物配置、つまり衝突や葛藤があるということだ。ゆるふわとラブコメは多少似ているように見えるが全く別物であり、これを混同すると大変なことが起こる。ゆるふわ系を楽しみたい読者は、一切の緊張感から解放されて母の胎内かコールドスリープ装置の中にいるような気分を味わうことを目的としており、そこで三角関係だの嫉妬だのが混ざりこむと、あたかも甘いシュークリームを食べていたら中にピリッと辛い黒胡椒の粒が混じっていたような気分になってしまう。黒胡椒は辛い味を楽しむ麻婆豆腐で楽しむものであり、シュークリームに入れるものではないのだ。
 つまり、『あまりまわり』に登場する男キャラは、羊の群れに紛れ込んだ狼のように不穏な存在であり、読者の安堵感を脅かすものとして認識されてしまっているということだ。実際、『みなみけ おかわり』などでは女キャラ中心の日常話にオリキャラの男性(たとえ小学生であっても男性は男性)を入れ、さらにシリアスな雰囲気にしてしまったばかりに、黒歴史として名を残すことになってしまった。男キャラはゆるふわ系では基本的に禁物であり、出すとすればギャグキャラや見守るキャラ、あるいは最初から誰とくっつくか確定していちゃいちゃしているなど「安全」なキャラになっている必要がある。
 
 そして『あまりまわり』の第二の問題は、孤児院が舞台という、ゆるふわ系としては重いテーマということだ。
 孤児院が舞台となると、必然的に登場する子供たちは、「親から捨てられた、もしくは親を亡くした」ということになってしまい、その設定の時点で読者の心に暗い影をよぎらせることになってしまう。むろん、シリアスな話だとか冒険の話ならなんら問題はないのだが、ただ安らぎだけを求めるゆるふわ系では、うまく設定を調理しない限り、基本的にNGだ。
 『きんいろモザイク』や『ご注文はうさぎですか?』を見ても基本的に平和な家庭であり、昼ドラめいた家庭の不和は存在しない。『らきすた』ではこなたの母が病没していることになっているが、それについては、父そうじろうもこなたも亡き母の思い出を大切にしながら生きているという前向きな設定になっており、母の幽霊が心配して見に来るなど、たとえ母の死去という重いテーマであっても、悲しかったり辛かったりしないような描写になっている。ゆるふわ系に限らず、ハーレム系ラノベなどでも、父や母、とくに父はよく不在になっているが、海外出張など理由をつけられていたり、あるいは単純に何も説明されていなかったりと、巧みに読者に負担をかけないようにしている。
 余談ながら、父親キャラが基本的に出ないのは、「父親」という、壮年男性であり、働いて家に収入をもたらすことで社会との関わりを暗示し、時には星一徹ばりの理不尽な抑圧すら連想させる、そんな存在が、オタクの望む世界とはあまり合わないということなのだろうと思う。ゆるふわ系もまたオタクのすみかである以上、そのルールは厳守される。僕が、「ゆるふわ系の世界も厳しい」と考えるゆえんである。
 
 ディズニーランドという遊園地は、夢を売る商売であるだけに、その夢を守るために、著作権からスタッフの管理まで、非常に厳しい管理体制を敷かれている。楽しい世界を維持するためには、制作者は相応の努力を必要とする。それは、可愛い女の子たちが笑いさざめく「ゆるふわ系」も例外ではないのだと思う。

テーマ : マンガ - ジャンル : 本・雑誌

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